2025年04月26日

かたくな

かたくな

かりあげた髪はひとつきは経っていよう。
銀色の眼鏡をかけてとなりの車両からやってきた。
手荷物をふたつ連結扉のまえにおく。
決壊をふせぐための土嚢をおくように、
すきまを丁寧にふさぐ。
薄毛のトップコートはよれている。
タッタソルのシャツをきている。

奇妙な仕草。
座席にすわる初老のおとこが不機嫌になる。
まわりの客はうつむいている。

初老の男はうつむいた。
目にしなければ気分を害さない。
腕をくみ、
背をのばし、
目をつむる。

ききみみをたてる。
ひとりで問答をはじめる。

目をひらくべきか、
このまま無関心をよそおうべきか。
なにかあったときみていなかったというのは卑怯ではないか。
目をあけて一部始終監視するべきではないか。

初老の男は目をあけた。
駅につく。
客が降り、
乗ってくる。
杖をついた女性がいた。
初老の男はジェスチャーで座席をゆずろうとする。
杖の女性は大丈夫ですといった。

かりあげの男は本を3冊もっていた。
ていねいに床におく。
また手でかかえる。
かれの仕草から、
本の表紙をみてもらいたいのではないか、
初老の男はおもう。
駅に着く。
客は降り、
また乗ってきた。

かりあげの男は直立し、
かかえた本の表紙を客の目にはいるようにしむける。
奇妙なふるまいに客はおどろきかれからのがれた。
かりあげの男のまわりにひとはいない。

それ読んだよ。
年寄の声だ。
かりあげの男はふりむく。
きびしい本だね。

かりあげの男がくずれるようにしゃがみこむ。
両の脚は床にはりつく。
堰がきれたようにうなだれる。
あたまがふるえる。
かりあげの男は嗚咽する。

あなたも読んだのかい。
年寄はいった。
きびしいなぁ。

かりあげの男は衆目にはばかることなくすすりないていた。

かたくなでいるということは、
ときにあぶないひとをいう。
かたくなでいるということは、
なにをしでかすかわからない。
かたくなでいるということは、
つねにひとりぽっちになることだ。
覚悟などいらぬ。
そもひとはひとりぽっちなのだから。

ラベル:掌編
posted by 細野不巡 at 14:34| ことば | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする